イチローの哲学『回り道こそが近道』

回り道こそが、いちばんの近道かもしれない

私たちはつい、「最短ルート」「効率のいい選択」「無駄のない人生」を求めてしまう。できるだけ失敗せず、寄り道もせず、正解だけを踏み続けたい。けれど、本当にそれで「自分が何者か」を知ることができるのだろうか。

プロ野球選手のイチローは、そんな問いに対して、はっきりと逆の答えを示してきた人物だ。イチローは、「遠回りだと思っている道が、実は一番の近道だったりする」という趣旨のことを何度も語っている。近道ばかりを探していると、自分にとって何が合っているのか、本当に大切なものは何かが見えなくなる、という考え方だ。

イチロー自身のキャリアを振り返ってみても、それはよく分かる。決して最初からエリート街道を歩いてきたわけではない。周囲に理解されないフォーム、評価されない時期、結果が出ない期間。それでも彼は、自分にとって納得できるやり方を探し続けた。効率よりも「自分が信じられるかどうか」を優先し、回り道を恐れなかった。

回り道には、失敗や挫折がつきものだ。思うようにいかない時間は、不安にもなるし、自信も削られる。けれど、そこで初めて「自分は何が苦手なのか」「何をしている時が一番苦しく、何をしている時が一番楽しいのか」が見えてくる。順調なときには見えない、自分の輪郭が浮かび上がるのだ。

イチローは、「壁にぶつかった時、それを越えようとするか、避けて通るかで、その人の本当の姿が見える」といった趣旨の言葉も残している。回り道とは、まさに壁に向き合う時間のことだ。避けずに向き合い、考え、試し、悩む。その過程でしか、本当の意味での成長や自己理解は生まれない。

結果だけを急ぐと、他人の価値観や成功モデルをなぞる人生になりやすい。けれど、回り道をした人は、自分の足で選び、自分の感覚で判断する力を身につけていく。それは遠回りに見えて、実は誰にも奪われない強さになる。

もし今、自分の選択が「遠回りしているように感じる」なら、それは悪い兆候ではない。むしろ、自分が何者なのかを知るための、大切なプロセスの途中なのかもしれない。イチローが示してくれたように、回り道の先にこそ、自分だけの答えが待っている。

最短距離で辿り着いた場所より、迷いながら歩いた道の先で見つけた自分のほうが、きっと強く、納得できる。回り道こそが、人生における本当の近道なのだ。

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